アカベコマイリ

HEAR NOTHING SEE NOTHING SAY NOTHING

本 - FREE〈無料〉からお金を生みだす新戦略

遅ればせながら FREE を読み終えた。

分析の明確さに基づく説得力、エピソード選びのセンス、文章の巧みさ、どれをとっても素晴らしい。

表題や著者 (WIRED 編集長) の印象からはじめは IT 業界の話が中心だと思っていたのだけど、実際には非常に広範な業界について述べられている。安全カミソリ、航空業界から中国・ブラジルの音楽業界にいたるまで、FREE に関わるものなら何でもござれ状態なので、誰が読んでも身近に感じられるエピソードを見つけられそうだ。

難解な話題も、これらの魅力的なエピソードによって FREE を認識させながら語られる為、とても理解し易い。読み終えてから気付いたのだが、各章の独立性が高いので、キャッチーな章 (例えば「第 14 章 フリーワールド」) から先に読んでゆくのもアリだと感じた。

しかし音楽業界に関する話題が数回登場するのにGrateful Deadを取り上げていないのは意外だった。彼らはまさに FREE の先駆者なので紹介しないのはもったいない。

というわけで、以下に簡単なグレイトフル・デッドと FREE についての考察を書いてみる。

Grateful Dead と FREE

Grateful Dead の音楽活動はコンサート中心である。それも延々とサイケデリックなジャムを続けるスタイルなのでレコードのようなパッケージ ビジネスとはほぼ無縁である。わずかに数枚のアルバムがリリースされているものの、活動歴を考えると実に少ない。

彼らの音楽を聴く主な手段はコンサートにゆくか、ファンによって録音されたコンサートのテープを入手する事である。

Grateful Dead のコンサート会場には録音用のブースが設けられており、ファンはここで自由に演奏をテープに録音できる。ジャムというスタイルと録音者の意志も介在するためテープには一意性があり希少。まさに究極のファングッズだった。

ファンはこれらのテープを共有・交換する事で Grateful Dead への理解を深めていった。バンドはスタジオ盤を滅多にリリースしないためテープ流通は促進された。結果、インターネットの登場を待たずして世界中に広まった。伝搬するテープは無償の宣伝材料となり、どこの国にも彼らのファンが生まれた。

これが計算に基づくものかは分からないが、彼らはコンサートの収益でも十分に活動を続けられたし、時にはコンサート収益で全米 No.1 になった事もあるそうだ。

この現象は FREE における「第 9 章 新しいメディアのビジネスモデル」と似ている。Radiohead が音源の値段をユーザーに任せ Prince が新譜を Daily Mail 誌の付録として配ったモデルに似ている。ただし音源の作成までもユーザーを関与させる点が異質である。CGM 的ともいえる。

Grateful Dead の活動と文化は非常に面白く FREE を読んでいる間、ずっと彼らの事が頭をよぎっていた。この記事は American Beauty を聴きながら書いている。話のオチ的にはテープを聴いていた方が良いのだけど、残念ながら私は所有していない。

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