npm 開発で脱 Babel してみる
自作 npm の開発で脱 Babel したときの対応と問題点まとめ。
- 2017/1/31 訂正 power-assert の作者、t_wada さんより power-assert は babel-register を通すなどしないと assert 置換が働かず素の assert になってしまうという指摘があったのでユニットテスト関連の記述を訂正
脱 Babel を決めた背景
私はいくつか自作 npm を公開している。これらは ES2015 以降の機能と構文を利用して npm publish
の際に Babel で ES5 相当へ transpile している。この運用で特に問題も起きていない。またプリセットに babel-preset-latest を採用することで ES 関係の規格追従を Babel 任せにできる安心感もあり、ずっとこのままでいいと思っていた。
そんなある日、職場で Node アプリを開発している人から「Babel 依存は怖くないですか?」という質問があった。Babel にバグがあったら調査や修正は困難だし、使わなくてよいならばそうするに越したことはないのでは?と。
これまで C++、C#、Java などコンパイル前提の言語で開発した経験から、よほどのことがない限りコンパイル結果は信頼に足ると判断していた。そもそもコンパイルされたマシン語や中間言語を人間が直に記述するのは非常にキツイ。そのため脱コンパイラーという選択肢は現実的ではないと認識している。
一方、JavaScript における transpile は高級言語間の変換。その気になれば人間が書けるのだ。
transpiler への慣れから、この事実をすっかり忘れていた。Node であれば Web フロントエンドと異なり動作環境の分岐は少なく package.json
の engines
にて対象環境を限定することも可能。ならば新しい Node を前提として脱 Babel を検討してみるのもよさそうと考えはじめた。
そんな折、npm-run-all が v4.0.0 で Babel による transpile を廃止。Node は v4 時点で ES Modules を除く大半の ES2015 機能が実装されているため、この範囲で足りるなら transpile せずにそのままリリース可能だ。その前例として普段利用しているツールが脱 Babel したのはインパクトある。
これらを踏まえ、まずは自作 npm のうちダウンロード数の少なくニッチな wpxml2md から脱 Babel を試してみることにした。
脱 Babel への道のり
脱 Babel 対応で実施したことを書く。
Node 環境の明示的な指定
脱 Babel における前提条件として動作環境とする Node のバージョンを決める。npm-run-all は Node v4 を下限としているようだが、wpxml2md では v6 としておく。
開発と検証コストを考慮して自作 npm の動作環境は「最新 + 最新 LTS」としている。2017/1 時点の最新 Node は v7 系、LTS は v6 と v4 があるため対象は「v7 + v6」となる。これまでは Babel による transpile で v4 以下でも動作していたのだが、これを廃止することで明示的な下限の指定が必要となった。これは package.json の engines
プロパティに記述。
{
"engines": {
"node": ">= 6"
}
}
ちなみに
というバッヂを用意していて前から README へ掲載していた。今回の対応により、ようやくこれが本来の意味をあらわすようになった。
Babel の transpile を廃止
これまでは Babel の transpile を前提として以下のような Babel 設定と npm-scripts を利用していた。
{
"babel": {
"presets": [
"latest"
],
"env": {
"development": {
"presets": [
"power-assert"
]
}
}
},
"scripts": {
"test": "mocha --timeout 50000 --compilers js:babel-register test/**/*.test.js",
"watch": "babel src --out-dir ./ --watch",
"start": "npm run watch",
"build": "babel src --out-dir ./",
"prepublish": "npm run build"
}
}
script | 内容 |
---|---|
test | 予約された npm run タスク。 mocha と power-assert によるユニット テスト。 |
watch | 開発用。ファイル監視による自動 transpile を実行。 |
start | 予約された npm run タスク。watch を呼び出すだけ。 |
build | リリース用。現時点のソース コードで transpile を実行。 |
prepublish | 予約された npm publish 時に呼び出されるタスク。build を呼び出しているため npm として公開されるイメージは transpile されたものになる。なお prepublish は現在 deprecated になっていて prepare へ修正すべきなのだが直し忘れていた。 |
これが脱 Babel によりこうなる。
{
"babel": {
"env": {
"development": {
"presets": [
"power-assert"
]
}
}
},
"scripts": {
"test": "mocha --timeout 50000 --compilers js:babel-register test/**/*.test.js"
}
}
transpile 不要となるため関連するタスクが消えてユニット テストだけが残った。ただし power-assert を利用しているなら標準 assert を置換するための transpile が必要なので、このための設定は維持する。
env.development.presets
へ power-assert
だけ指定することで Babel 依存がユニット テストに限定されていることが明示されるだろう。必要な Babel 関連の npm も babel-register と babel-preset-power-assert だけになる。
ES Moduels を CommonJS 化する
Node の ES Modules 対応については以下が詳しい。
なお現時点の最新 Node である v7 においても ES Modules には対応していないため export/import
は CommonJS の exports/require
へ修正する必要がある。例えば
export const Options = {
};
export default class CLI {
}
を
const Options = {
};
class CLI {
}
module.exports = {
Options: Options,
CLI: CLI
};
とする。読み込む側は
import CLI from `cli.js`;
import { Options } from `cli.js`;
を
const CLI = require( `cli.js` ).CLI;
const Options = require( `cli.js` ).Options;
とする。ひとつのモジュールから export
と default export
で複数のインターフェースを公開していると面倒かもしれない。しかし ES Modules で書いていたなら import
はソース コード冒頭に集約されているから悩む余地なく機会的な作業になる。なんなら正規表現でまとめて変換してもよい。
ユニット テストについても同様に対応すること。
余談。
CommonJS にした後でも将来の ES Modules 移行を容易にするため require
はソース コード冒頭へ書く習慣をつけたほうがよいかもしれない。その場合、読み込み先を camelCase で命名しているとローカル変数と競合する可能性が高くなるため PascalCase にしたくなり、私はそうしている。例えば fs
は Fs
と命名。
Node と CommonJS だとスコープを意識して require
を使い分け、なるべく関数ローカルで宣言する派が多数な感じだから ES Modules 対応されたときが気になる。私のようにするか、それともよりよい別の慣習が登場するのか?実に楽しみだ。
ESDoc 対応
npm のコード ドキュメント生成に ESDoc を採用している場合、そのままでは CommonJS を解釈できないので対応が必要になる。CommonJS は
上記 issue で紹介されている esdoc-node により対応可能。ESDoc にプラグイン機能があることを初めて知った。これを指定することでコードが ESDoc に解釈される前処理を実行できるらしい。例えば esdoc-node は CommonJS を ES Modules に変換して ESDoc に渡す。
さっそく使ってみよう。まず esdoc-node をプロジェクトに追加。
$ npm install -D esdoc-node
次にこれを ESDoc 設定へ指定。私は ESDoc の設定を package.json に定義しているので
{
"esdoc": {
"source": "./src",
"destination": "./esdoc",
"test": {
"type": "mocha",
"source": "./test"
},
"plugins": [
{ "name": "esdoc-node" }
]
}
}
このようにした。設定後に ESDoc を実行して CommonJS なコードも正しく解析されることを確認。
ただしローカル実行ではなく ESDoc Hosting Service は CommonJS やプラグインに対応していないようだ。試しに wpxml2md の API Document を生成 してみたのだが 2017/1/25 時点では esdoc-node 未指定の状態と同様に CommonJS の絡むものが解釈できていない。
この点について要望 issue を登録してみたのだけど、もしプラグイン対応する場合
- Hosting Service 側でプラグインを網羅しておき選択実行する
- プラグインを中央管理する仕組みがないと網羅できない
- プラグインのバージョンはどうするのか?常に最新?
- プロジェクトの ESDoc 設定と
package.json
から動的にプラグインを決定する- プラグインのインストールはどうする?
- ドキュメント生成とごにプラグインをインストールすると Hosting Service の負荷が大きい
- CI 系サービスのように VM や Docker コンテナで対応するとしても負荷は大きい
といった問題が予想されるため難しそうだ。しかし要望があることだけは記録しておきたかったので issue 登録することにした。
別の方法として ESDoc 本体が esdoc-node 処理を取り込むという選択肢もある。ただ、いずれ Node が ES Modules へ正式に対応するとしたら CommonJS は過渡期の存在である。
- そのために対応コストを割くのか?
- ESDoc と名乗るツールとして ECMAScript とは直に関係しない CommonJS へ対応することは設計思想として望ましくないのでは?
という考えもあるだろう。どのような対応、または非対応のままになったとしても ESDoc 作者の意向を尊重したい。
ESDoc Hosting Service を利用しない場合、対象プロジェクトが GitHub で管理されているならそのリポジトリに対して GitHub Pages を使う手もある。ローカルの ESDoc + esdoc-node で出力したものを自前でアップロードするか、そういうタスクを npm-scripts に定義して CI サービス経由で生成から公開まで自動化するなどの方法が考えられる。
本記事を書いた直後に ESDoc 作者の @h13i32maru さんから見解が。
ESDoc Hosting Service 的にはセキュリティや負荷を考慮、結果として ESDoc 公式プラグインのみサポートしているとのこと。ただ Node の ES Modules 対応は相当に先となりそうなので、この長い過渡期に Node かつ脱 Babel したい開発者としてどうか?という悩ましい課題がある。
まとめ
一部、問題もあったが transpile 不要となったことで Node のバージョンだけを意識して開発すればよい。記述したコードはそのまま実行されることが保証される。Babel 由来の潜在的なトラブルを考えなくてよいため精神的に楽。
あと npm をユニット テストではなく普通のプログラムとして走らせて検証してみたい場合、いちいち transpile しなくて済むのも助かる。
検証はテストに定義すべきでは?という意見もあるだろうけどリポジトリの examples
フォルダに npm として参照したときのサンプルを配置しているとき、その動作検証で npm publish
する前の現行コードを試したくなったりする。その場合、transpile なしだとビルド系タスクを実行せず動かせてよい。
以上を踏まえ、他の npm についても気が向いたら脱 Babel してゆく予定。